原理

「スウィングバイ」と「万有引力の法則」

「スウィングバイ」は、少ない燃料(推進剤)しか積めない惑星探査機が遠くまで行く時に惑星の重力を使って加速する方法。実は、これは「万有引力の法則」が関係しています。

■ 万有引力の法則
サー・アイザック・ニュートン(Sir Isaac Newton)1643年〜1727年 リンゴの実が枝から落ちる様子をみたニュートンが発見したという話で有名な「万有引力の法則」。真相は、月が地球に向かって落下していく割合、加速度をニュートンは算出しました。その結果、「月が落ちるようにリンゴも落ち、リンゴが落ちるように月もまた、降ってきている」という、もともと月の話から「万有引力の法則」を発見したようです。

さて、Mという質量を持った物体とmという質量を持った物体が距離で近づいているときに働く力Fのことを「引力」といいます。
(このときのGは万有引力定数)


質量mのリンゴを質量Mである地球が距離で近付いていると力Fでお互いに引き合っている。しかし、mは、Mに比べ無視できるほど小さいので、リンゴは地球に引き寄せられ落下するように見える。


■スウィングバイの原理
惑星の質量をMとし、探査機の質量をmとし、探査機が惑星に近づいていると考えましょう。距離が小さくなればなるほど、引力Fは大きくなります。つまり、探査機は惑星に、力Fで引き寄せられるというわけです。そのとき、探査機の速度は、進もうとする方向と惑星との引力Fとの関係で、徐々に速くなります。しかし、探査機が惑星の後ろを通過して、惑星から離れようとすると、今度は逆に、力Fで引っ張られるために、探査機の速度は遅くなってしまい、結局は元の速度にもどり、探査機の進む方向が変わっただけになってしまいます。

 ところが、実際の惑星は公転をしていますので話は複雑です。惑星は探査機を引き寄せながら、探査機に近づいているのです。そして、探査機が惑星の後ろを通過した後は、探査機と同じ方向へ進むことになるので、惑星に引き寄せられるときに増えた速度を相殺することはありません。最終的には、探査機は惑星の近くを通過することによって加速されることになります。

中央が惑星、薄青が重力場、茶が探査機点線が惑星に対する軌道、実線が惑星に対する速度を表す。進入時と離脱時で速度は変わらない。


緑は惑星の公転速度、赤は探査機の、惑星に対する速度と天体の公転速度の合成速度を示す。公転する天体の後ろ側から進入すると、離脱時には増速している。「はやぶさ」は、地球を使ってスウィングバイをおこなった。

 これは、探査機の推進力を最小限しか使わずに加速できる方法で、探査機という限られたスペースに搭載されたエネルギーで、長い期間航行をするためのアイデアでもあります。この画期的な省エネ航行法も、元は誰でも知っている「万有引力の法則」をちょっとだけひねった発想から生まれたものだったのです。