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ブラックホールの物理学

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アルバート・アインシュタインの一般相対性理論をもとにその存在が考えられたブラックホールですが、私たちはどこまでその正体に迫れたのでしょうか。

ブラックホールの姿

まずはブラックホールについてイメージを固めていきましょう。ブラックホールの巨大な質量は、その近傍で周りの時空をゆがめ、さまざまな物理現象を引き起こします。周りに物質があれば、それを強力に引き寄せ、吸い込みます。吸い込まれる物質も運動をしていますので、一般的には降着円盤と呼ばれるドーナッツ状の構造をブラックホールの周りに形成し、そこから徐々にブラックホールに吸い込まれていきます。その際、激しく周囲の物質と摩擦することで、強力な電磁波を放射することになります。

これまでに多くのブラックホール候補天体が見つかっていますが、それらはブラックホールに吸い込まれつつある物質が放つ強烈なX線によって同定されています。発見されているブラックホール候補天体のサイズも、太陽質量の数倍のものから数億倍をも超えるような超巨大なものまでさまざまです。銀河系内に観測される大質量星の数から推測すると、その一生の最後につくられるブラックホールは、見つかっているよりももっとたくさんあるでしょう。また、銀河系の中心と同様、他の多くの銀河の中心にも巨大ブラックホールがあるのではないかと考えられています。

ブラックホールのまわりからは強烈なX線が放射される場合があるので、X線天文衛星で観測すると、ブラックホール候補天体を発見したりそこで起こっている現象を研究したりすることができます。日本のX線天文衛星「あすか」は、有名なブラックホール候補天体であるはくちょう座X-1を観測して降着円盤の内側の大きさと温度を測定し、その大きさが理論的予測値と一致していることを確かめ、はくちょう座X-1が確かに恒星質量のブラックホールを含む連星系であることを示しました。また、銀河系の中心部から放射されている強烈なX線を観測しました。これは、銀河系の中心巨大ブラックホールがある証拠だと考えられています。さらに、M82銀河の観測から、その中心に恒星質量ブラックホール巨大ブラックホールの中間的な存在である、太陽の1,000倍程度の質量をもつ中質量ブラックホールが存在すると考えられる結果を得ました。「あすか」の後継機である「すざく」も、連星系になっているブラックホール周辺から放射されるX線を捉えてその物理過程に迫ったり、銀河系やほかの銀河の中心部をX線で観測して巨大ブラックホールの自転運動や時間変化のようすを明らかにしたりしています。たとえば、大量の物質にかくされて見えなかった新しいタイプの巨大ブラックホールと考えられる天体がごく普通の銀河の中心にある証拠を捉え、これまでに見つかっていない巨大ブラックホールが宇宙にはたくさん存在しているのではないかと考えられる結果を得ています。また、「あすか」やNASAの衛星「チャンドラ」、ESAの衛星「XMMニュートン」の観測データと「すざく」のデータを総合し、銀河系中心の巨大ブラックホールが300年ほど前に大爆発を起こしたと考えられる結果も得られています。
X線だけでなく、電波でブラックホールの周辺を観測すると、ジェットや円盤のようすを研究することができます。電波観測衛星「はるか」はジェットの観測で大きな成果をあげ、M87銀河の中心部かららせん状のジェットが10光年にもわたってのびているようすを捉えました。また、「はるか」を用いたVSOP計画により、巨大ブラックホールが存在すると考えられるM87銀河中心部の周辺を高解像度で観測しました。「はるか」の後継機として計画されている衛星「ASTRO-G」による観測も、大いに期待されています。

巨大な質量を持つブラックホールは、天然の実験場です。日常的には奇異に思えるさまざまな現象が、当たり前に起きているのです。極限の物理状況にあるブラックホールは、科学者にとっては興味の尽きない対象だと言えるでしょう。