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人工衛星の開発手法

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大規模なシステムを高い品質を保ちながら確実に効率よく開発するための手法として、NASAアポロ計画時代に開発した「段階的プロジェクト計画」(Phased Project Planning:PPP)があります。

PPPは開発段階を幾つかのフェーズに分けて、それぞれのフェーズで作業内容を定義し結果を審査により評価して、次のフェーズへの移行を判断する手法です。フェーズの分割は以下のとおりです。また、これらの各フェーズで実施すべき作業と、試作・試験される機器のモデル、次フェーズへの移行可否判断のための審査会は以下のとおりです。

プリフェーズA: 
【実施内容】ミッションを定義するための概念検討段階
【試作・試験モデル】特になし
【審査会】ミッション定義審査「MDR」(Mission Definition Review)

フェーズA: 
【実施内容】プリフェーズAで定義されたミッションを遂行するために必要なシステムの要求事項をまとめるとともに、まとめた要求事項を実現するためのシステムを定義するための全体計画を策定して、システム開発仕様書(案)などを仮制定し、正式なプロジェクトとして立ち上げ、システムの開発を担当する企業を選定し、開発体制を整備します。
【試作・試験モデル】クリティカルなミッション機器の試作と性能確認試験など
【審査会】システム要求審査「SRR」(System Requirement Review)、およびシステム定義審査「SDR」(System Definition Review)を経て、プロジェクト移行審査が行われます。プロジェクト移行審査では、システム開発仕様書など技術管理文書、企業を含む開発体制、開発資金計画などが審査されます。

フェーズB: 
【実施内容】フェーズAで仮制定したシステム開発仕様書(案)などを元に、システム、サブシステム、コンポーネントの基本設計を行い、システム、サブシステム、コンポーネントの仕様書(初版)を制定します。
【試作・試験モデル】BBM(Bread Board Model)を製作して、設計の結果の実現性を確認します。
【審査会】基本設計審査「PDR」(Preliminary Design Review)を行い、各種開発仕様書の妥当性を評価して、フェーズCへの移行可否を判断します。

フェーズC: 
【実施内容】システム、サブシステム、およびコンポーネントの詳細設計を行うとともに、EMの試験結果とあわせて設計を確定します。
【試作・試験モデル】EM(Engineering Model)の製作、試験を実施して、フライト実機よりも厳しい環境下においても電気性能、構造設計、熱設計が所定の機能、性能を発揮できることを確認することにより、フライト実機の設計、製造工程、試験計画が妥当であることを評価します。
【審査会】詳細設計審査「CDR」(Critical Design Review)を行い、フライト実機(Proto-Flight Model:PFM)の設計、製造、試験計画などを確定し、次フェーズDへの移行の可否を判断します。

フェーズD: 
【実施内容】フェーズCで確立された設計、製造工程、試験計画に基づきフライト実機としてのコンポーネント、サブシステム、システム機器の製作、インテグレーション、試験を実施します。
【試作・試験モデル】PFMの製作、認定受入れ試験を実施し、製品がフライト実機としての品質を有していることを確認します。
【審査会】認定試験後審査「PQR」(Post Qualification Test Review)により、システムがフライト実環境よりも過酷な環境下でも所期の機能、性能を発揮できることを確認します。その後、システム全体をフライトコンフィギュレーションにして、打ち上げ射場への移動が可能であることを確認するための出荷前審査「PSR」(Pre-Shipment Review)を実施します。その後、フライト実機にのみならず地上系も含めて、打ち上げ準備作業に移行可能かどうか判断するための「打ち上げ移行前審査」を行います。

フェーズE: 
【実施内容】打ち上げ射場での整備作業、打ち上げ、初期運用、定常運用を行います。
【試作・試験モデル】PFMの最終フライトコンフィギュレーションとして、火工品取り付け、姿勢制御などの推進系推薬などの充填などを行います。
【審査会】打ち上げ射場において、打ち上げ準備完了審査「LRR」(Launch Readiness Review)を行い、打ち上げのための最終段階への移行判断を行う。打ち上がった衛星および地上系が初期の機能、性能を発揮しているかどうか初期運用結果を評価し、定常運用への移行が可能かどうかの「定常運用移行審査」を行います。さらに、所期ミッション寿命を達成した段階で、運用結果を評価して「定常運用終了審査」を行います。定常運用終了後においても、太陽電池パドル発生電力、バッテリ残容量、残量推薬を評価して、継続運用可能と判断した場合、後期利用段階へ移行します。

フェーズF: 
【実施内容】後期利用段階終了後、運用停止まで運用を行います。運用終了時には、国連で定められた「スペースデブリ低減ガイドライン」に従って、中低高度衛星の場合には25年以内に大気圏再突入して落下・消滅する軌道への移動処置、静止衛星の場合は、静止軌道よりも約250~300km上空の軌道へ移動する処置を行います。

衛星の開発

衛星開発の各段階で製作されるハードウエアには、様々なものがあります。以下にその概要を紹介します。

├開発モデル(DM)
│ ├ブレッドボードモデル(BBM)
│ ├搭載機器開発モデル(EM)
│ ├サブシステム開発モデル─姿勢制御モデル、アンテナモデル
│ └システム開発モデル
│   ├電気モデル(SEM)
│   ├構造モデル(SDM)
│   └熱モデル(TDM)

├プロトタイプモデル(PM)
├プロトフライトモデル(PFM)
├フライトモデル(FM)

・開発モデル(DM)
PM/FMなどの実機の詳細設計を固めるために必要なデータを取得するために、それに適った開発モデルを製作し、その試験・評価結果を詳細設計に反映します。また開発モデルは、システムや搭載機器の機能性能を試験・評価するだけでなく、衛星システムや機器のハンドリングやオペレーションの手順を検証することも重要な目的です。

・ブレッドボードモデル(BBM)
搭載機器のうち、構造や電気回路を実験的に確認しデータを取得する必要のあるものに対して製作します。部品・材料は一般仕様のものを用い、試験は電気性能や温度試験が中心となります。

・エンジニアリングモデル(EM)
BBM での検討結果に加えて、機能・性能を質量、寸法、電力などを含めて評価するモデルで、主に搭載機器の電気的および機械的な設計を確立するために用います。電気性能や温度/熱真空試験、機械環境試験、機械検査を実施します。近年EM はSEMに供される他、EFMとしてフライトさせることもあるので、製造・試験条件の設定・取り扱いには注意が必要です。

・姿勢制御モデル(ACDM)
衛星システムレベルではできない姿勢制御系の設計の妥当性を確認するモデルです。関係搭載機器に加えて、衛星ダイナミクスを組み込んだ計算機やフライトテーブルで構成されます。姿勢系の機能試験と同時に、試験方法の検討や軌道上運用方法の検討も行います。

・アンテナモデル
通信・観測系などのアンテナパターンが、衛星形状の影響を含めて要求を満たすことを確認するためのモデルです。実物大か縮尺した大きさのアンテナおよび疑似構体で構成し、モデルは、電波的に実機と等価でなければなりません。

・システム電気モデル(SEM)
衛星レベルの電気的機能・性能、および電磁適合性EMC の確認などを主たる目的とするモデルで、開発試験を終了したEM 搭載機器で構成します。構成は必要箇所以外の冗長系を省略し、衛星構体も電磁的に見合う範囲で簡素化し、場合によってはベンチタイプのもので実施することもあります。

・構造モデル(SDM)
構造設計の妥当性を確認するためのモデルで、衛星の構造、使用材料、機器配置、質量特性など構造に関して等価でなければなりません。

・熱モデル(TDM)
熱設計の妥当性を確認するためのモデルで、衛星の材料、機器配置および機器発熱量分布などを反映し、熱制御機器を搭載して衛星を熱的に模擬します。衛星の外部は熱材料で覆われるので、その外観はフライト実機に似ています。
なお、SDMとTDMはモデル製作の効率化を図る目的で2つのモデルを一体化し、熱構造モデルSTM として構造試験と熱試験をシリーズに実施することもあります。

・プロトタイプモデル(PM)
最終の設計および製造手法を確認し、認定するためのモデルであり、打ち上げ搭載機器および衛星システムで作成し、実飛行環境より厳しい環境条件で試験をおこない、設計や製造に隠れている瑕疵を見つけ出します。

・フライトモデル(FM)
軌道上で運用される搭載機器および衛星システムで、受入試験を通過すると、実際に打ち上げられます。

・プロトフライトモデル(PFM)
開発を効率化するために、認定を終了したPMを、そのまま、または一部必要な部分を改修してフライト実機にしたモデルです。フライトレベルの受入試験をおこなって打ち上げに供します。つまりPFM 開発方式の時は、このPFM が打ち上げられます。

システムPM、FM、PFMに対する試験

・認定試験(QT)
QT は、FMと同一の設計・製造方法で製作したPMに対して、フライト実機FMの受け入れ試験より厳しい試験条件にさらし、設計と製造方法の認定を行います。QTの試験レベルは、衛星が打ち上げおよび軌道上で遭遇する実環境より厳しい条件に設定して機器の製造や衛星の組立で潜在する不具合を顕在化させ、搭載機器などが実環境にさらされても要求された機能性能を十分なマージンで満足することを確認します。一般的には、振動試験では実荷重の1.5 倍、音響試験では+4db、熱真空試験では設計予測温度範囲に上下15℃広い温度を与えます。

・受入試験(AT)
ATはFMに実施します。ATの目的は、PMのQTで認定された設計および製造方法で製作されたFM に潜在するかもしれない部品材料の欠陥、ワークマンシップの欠陥などを顕在化することにあります。また、AT を通じて衛星の取り扱いの習熟および打ち上げ、軌道上運用時の性能を予測したり、比較したりするためのデータを取得します。ATの試験レベルは、熱真空試験では軌道上での最大予測温度範囲として設計予測温度範囲に上下10℃広い温度を与えます。

・プロトフライト試験(PFT)
PFTはQTとATを一つの衛星PFMで実施するため、設計および製造方法が実際より厳しい条件に耐えるものであることと、打ち上げや軌道上運用に適したものであることを同時に確認します。そのため衛星の寿命に影響するような過大な試験環境を与えて衛星本体に潜在的な欠陥を発生することの無いような配慮が必要です。このため、PFTの試験レベルはQTと同などの強度で、負荷時間をQTより短縮する方法が採られます。

衛星のシステム試験

システムレベルで実施される各種試験は以下のとおりです。
(1)機能・性能試験(各環境試験の前後で実施)
(2)電磁適合性(EMC)試験
(3)アンテナパターン測定
(4)残留磁気測定試験
(5)推進系リーク試験(各環境試験の前後で実施)
(6)アライメント測定(各環境試験の前後で実施)
(7)質量特性試験
(8)動釣り合い試験
(9)モーダルサーベイ
(10)振動試験(正弦波、ランダム)
(11)音響試験
(12)衝撃試験(パイロショック)
(13)熱平衡試験
(14)熱真空試験

一般的な試験順序は以下のとおりです。

振動試験
振動試験
音響試験
音響試験