原理
「再突入カプセル」と「空力加熱」
はやぶさのカプセルは、およそ12km/sという超高速で大気圏に再突入しました。
再突入の際にカプセルは、1万度を超える超高温の環境にさらされることとなりますが、この過酷な環境に耐えて、2010年6月13日にオーストラリアのウーメラ砂漠に帰還しました。
1.なぜ、高温になるのか?
よく空気との摩擦によりカプセルが高温になるといわれることがありますが、摩擦による温度上昇ははごくわずかで、温度上昇は、超高速の空気とカプセルが衝突して、空気の流れがせき止められる(圧縮される)ことにより空気の運動エネルギーが、熱エネルギーに変換されることが要因です。これを空力加熱と呼びます。
高速で前に進むカプセルからみると、同じ速度で空気がぶつかってくることになります。空力加熱率は、空気の運動エネルギー(速度の2乗に比例)と、単位時間にカプセルへ衝突する空気の質量(空気密度と速度の積)に比例するとおおよそ考えられますので、空力加熱率は速度の3乗に比例することになり、再突入時の速度が、カプセルに与える空力加熱に大きく影響を及ぼします。このため再突入速度の大きなはやぶさカプセルでは、スペースシャトルの30倍とも言われる空力加熱をうけます。(実際には機体形状の違いや高温での化学反応等もあり、速度に対しては3乗よりもわずかに大きい値で比例します。)
2.はやぶさカプセルの熱防御法
1.で示したような空力加熱の効果によって、大気は1万℃もの高温となります。この高温から、サンプルコンテナをはじめとした内部の機器を守るためにカプセルには、耐熱技術が施されています。カプセルに用いられた技術は「アブレーション法」という技術です。
アブレーション法にはアブレータと呼ばれる耐熱機能を用いた繊維強化プラスチックが用いられます。
はやぶさのカプセルにはアブレータとして炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が使用されています。
アブレーション法の熱防御には主に以下のような効果によって熱から本体を守っています。
・樹脂の熱分解による吸熱効果
・炭化層による耐熱効果
・熱分解ガスでの境界層形成による高温気体からの直接的な影響の緩和
帰還後のはやぶさのカプセル内部では、これらの効果のおかげで、打ち上げ前に貼り付けられたステッカーが、無傷の美しい姿で残っていました。
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